26歳という若さで国家総合職としてのキャリアを区切り、生命科学という全く異なる未知の領域に挑もうとするその姿勢には、並大抵ではない知的好奇心と誠実さを感じます。
省庁の仕組みを理解した上で、自分の居場所ではないと確信できたことは、むしろこれからの長い人生において大きな財産になるはずです。
生命科学の世界を志すにあたって、お伝えしたいのは文系からの理転、特に研究者を目指す道は、周囲が言うほど不可能な賭けではないということです。
確かに、実験手技の習得や基礎知識の補完には血の滲むような努力が必要ですが、研究の本質は問いを立て、論理を構築し、証拠を集めて他者を説得するというプロセスにあります。
これは、あなたが官僚として法案や政策を組み立て、関係各所と調整してきたプロセスと驚くほど共通しています。
むしろ、現在の科学界では実験はできるが、その社会的意義を言語化したり、制度との整合性を考えたりするのが苦手という研究者が少なくありません。
あなたの官僚としてのバックグラウンドは、研究者としてのユニークな強み(エッジ)に必ず変わります。
可能であれば、いきなり学部に入り直す前に、まずは文系や異分野からの受け入れに寛容な大学院の門を叩いてみることを検討してみてください。
生命科学の分野、特に新領域や計算生物学、公衆衛生学などの周辺領域では、法学部出身の論理的思考力を高く評価する教授が一定数存在します。
まずは、独学で分子生物学の基礎を固め、興味のある研究室の教授に元官僚としての視点を持って生命科学のこの課題に取り組みたいと直接ぶつけてみるのはいかがでしょうか。
そこで得られる反応こそが、あなたの進むべき道を照らす最もリアルな指標になります。研究者としてのポストを得ることは確かに狭き門ですが、生命科学を学んだ後の出口は、決してアカデミアの椅子だけではありません。
バイオスタートアップの経営参画、製薬企業の知財戦略、科学技術の倫理を法的に整備する専門家など法学(行政)×生命科学という掛け合わせを待っている場所は必ずあります。
まずは、ご自身の関心が生命のどのようなメカニズムに向いているのか、少しずつ解像度を上げてみてください。その関心の種が、険しい理転の道を歩む際の揺るぎない原動力になるはずです。