謙虚さと慈悲の心を持ってくれたら、うれしいです。
Think clearly (シンク・クリアリー) 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法 単行本(ソフトカバー) – 2019/4/1
ロルフ・ドベリ (著), 安原実津 (翻訳)
P88~
10 謙虚さを心がけよう あなたの成功は自ら手に入れたものではない
バフェットが「卵巣の宝くじ」と呼ぶものとは?
「運は生まれつきのものだが、成功は努力して手に入れるものだ」
一般的にそう言われている。これは、あなたの人生にも当てはまるだろうか?これまでの人生を振り返って検討してみよう。
まず、あなたの「人生の成功度」に点数をつけてみてほしい。「+10(スーパースター並み)から「-10(完全な失敗)」のあいだで評価し、答えを書いておこう。
□あなたの人生の成功度……( )※+10~-10
次に、あなたが手に入れた成功のうち、あなたが努力し、働いて手に入れた個人的な成果の割合と、あなたがかかわれない要因や偶然がもたらした成果が占める割合の配分を考え、それも書き留めてほしい。
□あなたが努力して手に入れた成果……( )パーセント
□あなたがかかわれない偶然がもたらした成果……( )パーセント
周囲の人にこの質問をしてみたところ、最も多かったのは「個人的な成果が60パーセント前後、偶然による成果が40パーセント前後」という答えだった。おそらくあなたも同じような数字を書いたのではないだろうか。
次は、ウォーレン・バフェットの言葉を借りて、ちょっとした思考実験をしてみよう。
母親のお腹の中にいる一卵性の双子を思い浮かべてみてほしい。二人の生命力も知力もまったく同じ。そこに妖精がふわりとやってきて、こう言ったとする。
「あなたたちのうちの一人はアメリカで、もう一人はバングラデシュで育つことになります。でもバングラデシュで育つ人には、税金の支払いは免除しましょう」
アメリカで生まれたほうの子が、生まれた場所に恵まれたおかげで獲得できる収入は、その子の将来的な収入のうち、どのくらいの割合を占めているだろうか?
□アメリカで生まれた子が、生まれた場所のおかげで獲得できる収入……将来的な収入のうちの( )パーセント
バフェットは、生まれたときに運命づけられるこうした格差のことを「卵巣の宝くじ」と呼んでいる。アメリカの代わりに、もちろんドイツやスイス、そのほかの先進国をこの話に当てはめてみてもいい。あなたはこの質問にどう答えるだろうか?
私がこの質問をすると、ほとんどの人は「80パーセント前後」と答えた。私もそう答えた一人だ。
つまり私たちは、「私たちの収入のかなりの部分は、恵まれた国に育ったおかげで手に入った」と思っている。先進国に生まれることは、それほどまでに経済的な優位をもたらすものなのだ。
そう考えると、「生まれた場所」が私たちの社会的な成功の大きな要因になっていることは明らかではないだろうか。
すでにあなたは、途方もない幸運に恵まれている
生まれたときに運命づけられる格差、前述の「卵巣の宝くじ」の対象になるのは、「生まれる国」だけではない。その国の、どの地域の、どの家庭に生まれるかも、自分で選べない。
現在のあなたに有利にも不利にも働くあなた自身の価値観も、ものの見方も、思想も、あなたが自分で身につけたものではない。
気がつけば入っていた「学校」という制度の中で、あなたが勉強を教えてもらった教師たちもあなたが選んだわけではない。
あなたが病気で苦しい時期を過ごさなければならなかったのも、悲劇的な出来事が起きたのも(もしくは悲劇的な出来事に遭わずにすんだのも)、あなたに責任はない。
そうはいっても、あなたは「これまでの人生には、さまざまな役割をこなしながら自分自身で選び取ってきたものがある」と言うかもしれない。
しかし、あなたがそれを選んだきっかけは何だっただろう?
ひょっとしたらあなたは、あなたの人生を変えてしまうような本を読んだのかもしれない。だとしたら、その本には、どうやって出合ったのだろう?
あなたのためにさまざまな世界のドアを開いてくれた、誰かとの出会いがきっかけだったという人もいるかもしれない。そのドアが開かなければいまのあなたは存在しなかったかもしれないが、その恩人と出会うことができたのも、ほかの誰かのおかげだったのではないだろうか?
たとえあなたが、いまの自分の運命に不満があったとしても、客観的に見れば、あなたは実は「途方もない幸運に恵まれている」という事実は頭に入れておいた方がいい。
現代に生きている人間は、これまで地球上に存在した人類のうちの「ほんの6パーセント」にすぎない。ホモサピエンスが世界に誕生して以降、過去三十万年の間に生まれたすべての人間の中で、いまの時代に生きているのはそのうちのたった6パーセントだ。
つまり、あなたがほかの時代に生まれていた可能性は「94パーセント」もあったというわけだ。
自分が、ローマ帝国の奴隷やエジプトの雑用係だったり、明の時代の後宮にいたりするところを想像してみてほしい。そんな境遇に生まれついていたとしたら、あなたの生まれもった能力はどのくらい活かせていただろうか?
「偶発的な遺伝子の掛け合わせ」で生まれてきた
私には、妻との間に双子の息子がいる。二卵性だ。四〇秒早く生まれたほうはブロンドで目は青く、あとから生まれたほうは黒髪に濃い色の眼をしている。
私たちは二人を平等に育てることに全力を尽くしているはずなのだが、二人の性格はまったく違う。
一人はいつも機嫌がよく人懐っこいが、もう一人は人見知りするタイプだ。だが、人見知りする内気な息子の小さな手は、生まれつきとても器用だ。私の妻の遺伝子と私の遺伝子が掛け合わさって、二人の新しい人間がつくりだされたのだ。
同じように、あなたの遺伝子は、あなたの両親の遺伝子の偶発的な掛け合わせの結果であり、あなたの両親の遺伝子は、あなたの祖父母の遺伝子の偶発的な掛け合わせの結果で……とどんどん過去にさかのぼることができる。
そうして、太陽王ルイ一四世の時代(日本では徳川家康の時代)までさかのぼると、あなたの祖先の人数は四〇〇〇人にまで増える。いまのあなたは、その四〇〇〇人の遺伝子の偶発的な掛け合わせの結果なのだ(今度ヴェルサイユを訪れる機会があったら、そのことを思いだしてみてほしい)。
いまのあなたは、あなたの遺伝子と、あなたの遺伝子の設計図が実行された環境によってできている。あなたの知能も遺伝的な要素が大きい。
同じように、あなたが内向的か外向的か、大胆か臆病か、几帳面かだらしがないかというのも「遺伝子」によって決定づけられている。
あなたが、自分の社会的な成功は、猛烈に働き、夜勤もいとわず、何ごとにも積極的に取り組みつづけた結果として手に入れたものだと考えていたとしても、それは決して間違いではない。
だが、その原動力であるあなたの強い意志の力は、偶発的な遺伝子の掛け合わせと環境によってつくりあげられたものなのだ。
すべては、目に見えない偶然の結果である
ここでもう一度、はじめの質問に戻ってみよう。
あなたが手に入れた成功のうち、あなたの個人的な成果が占める割合はどのくらいだろうか?
そう、正しくは「ゼロパーセント」。あなたの成功は、本質的に、あなたが何も、本当に何ひとつ影響を及ぼせないことにもとづいて成り立っている。
あなたの成功は、本当の意味であなた自身が手に入れたものではないのだ。
このことから導き出せる結論は、ふたつある。
ひとつ目は、謙虚であれということ。あなたが社会的な成功を収めている場合は、特に謙虚でなければならない。あなたがおさめている成功が大きければ大きいほど、周囲に吹聴することは控えるべきだ。
だが、謙虚さはすでに流行らなくなってしまったようで、ネット上には自分のがんばりをひけらかす人々であふれ返っている。控えめになろう。表面だけ謙虚に見せるのではなく、心の底から謙虚でいよう。口に出す、出さないにかかわらず、おごりはただの錯覚にすぎない。おごっても何にもならないだけでなく、おごる理由は何もないのだ。
おごりを持たない姿勢は、よい人生を送るための基本中の基本。このことについては、第49章でも詳しく見ていく予定である。
いまのあなたがあるのも、いまあなたが手にしているものも、いまのあなたにできることも、すべては目に見えない偶然のおかげなのだということを、日々心に留めておこう。
あなたにとっても私にとっても、大事なのは幸運に恵まれたことへの「感謝」の念を忘れないこと。それに感謝の気持ちを持てば、すばらしい副次的効果もついてくる。感謝の気持ちは人を幸せにしてくれるのだ。
ふたつ目は、あなたの(自分で勝ちとったわけではない)成功の一部を、恵まれない遺伝子を持って恵まれない地域の恵まれない家族のもとで生まれた人たちに、惜しみなく分け与えるべきだということだ。
自分を高潔な人物に見せるためではない。それが人間としての良識ある行動だからだ。寄付と租税はただの金銭的支出ではない。それ以前に、人間としてのモラルの問題なのである。
(補足へ続く)