矢倉を追求しているわけではないので正確な状況かはわかりませんが。後手の急戦対策や雁木対策が確立されたから矢倉に移行、という選択ではないと考えます。断片的な情報から私は現在次のように判断しています。
現代将棋はAIで序盤早々から指し手についてポイントの優劣の判断ができます。1手のミスで差がつくので、緻密な研究をしておくという思想が主流です。特に先手番は1手早く指せる利があるのだから、序盤から積極的にポイントを狙えるはず、狙わないで何のための先手なのかという思想が多数派に支持されています。
これに対して、矢倉は序盤早々に角道を止めてしまう持久戦狙いの戦型です。序盤からリードを狙うという戦法ではありません。だから現代将棋の風潮からすると「甘い指し方」に見えて、敬遠する人が多かったのです。
他方で先手矢倉の利点として、どのような展開になっても対応できる、容易に悪くならないというという柔軟性があります。後手の立場からすると、先手が初手からリードを狙う指し方をする場合、一歩得とか銀の早繰りとか、狙いが明快です。だから後手はAIで調べて最善の対策を事前準備することができるのです。しかし先手矢倉は早々のポイントを狙いません。では逆に後手が先手矢倉相手に序盤からポイントを狙うことはできるのかというと、それは無理です。だから先手矢倉は後手の立場からすると対策を立てにくい、事前研究が難しい作戦なのだろうと推測します。
A級順位戦の棋譜を並べていますと、先手で矢倉をたまに採用するという棋士がいます。矢倉は終わった発言で有名な増田八段までもが先手矢倉を指すことがあるのです。だから先手矢倉特有のメリットを最近見つけたのだろうなと思います。棋譜で後手の消費時間を見ると、序盤の30手目ぐらいで少考が目立ち、すでに事前研究を外れていることがわかります。つまり先手矢倉は、
「具体的に良くする手順はないが悪くもならない。また棋士は相かがかりや角換わり将棋の研究が中心で、矢倉対策はどうしても手薄になる。だから先手矢倉をぶつけることは研究外しの力戦として有力で、実戦的に勝ち易い」
ということなのではないか。
最近はそんなことを考えています。