雑草の絶滅が不可能な最大の理由は、それが特定の種を指す言葉ではなく、自然界の修復機能そのものを指しているからです。
蚊やゴキブリなどの動物と違い、植物はシードバンク(埋土種子集団)という圧倒的な時間差攻撃の仕組みを持っています。
地表に見えている草をすべて根こそぎ駆除したとしても、土壌の中には数十年から、種によっては100年以上も眠り続けることができる種子が数万粒単位で控えています。動物は個体が死ねばその場で終わりですが、雑草は時間の中に逃げ込むことで、環境が改善するまで何世代分もの命をバックアップとして保存しているのです。
次にニッチ(生態的地位)の法則が立ちはだかります。仮に高度な技術でブタクサやカモガヤといった花粉症の原因種を地球上から消し去ったとしても、空いたその土地には必ず別の植物が入り込みます。
自然界において裸の土が放置されることはなく、そこに新しく入り込んだ植物が、また数年後には新たなアレルギー源や害草として人間に認識されるだけです。つまり特定の種を消しても雑草という役割が消えることはありません。
さらに植物は動物に比べてゲノムの可塑性が極めて高いのが特徴です。
除草剤を散布し続ければ、植物は数世代のうちにその薬剤を無毒化する進化を遂げます。
蚊やゴキブリも薬剤耐性を持ちますが、植物は個体の中で遺伝子を重複させたり、異なる種同士で交雑して新しい性質を手に入れたりする能力が非常に高く、人間が作る化学物質の進化スピードを軽々と追い越していきます。
以上のことから、雑草を絶滅させるということは、地球の土壌を覆って守ろうとする力そのものを否定することに他なりません。
杉の木のように人間が植えたものは管理・伐採が可能ですが、野生の雑草は地球の皮膚のようなものであり、それを剥ぎ取れば土壌流出や生態系の崩壊を招き、最終的には人間が住めない環境を作り出してしまうことになります。
よって、雑草は絶滅させる対象ではなく、その生存戦略の強さを認めた上で、いかに人間活動のエリアに入り込ませないかという局所的な制御、コントロールに徹するしかない、というのが科学的な正解となります。