こんばんは
犬の心タンポナーデでは、心嚢内に液体が急速または持続的に貯留し、心臓の拡張期充満が機械的に制限される。これにより右心房・右心室への静脈還流が著しく障害され、中心静脈圧は上昇する一方で心拍出量は低下する。結果として全身循環は低灌流状態に陥り、末梢組織や臓器への酸素供給が不十分となる。
特に肝臓や腎臓など静脈系支配の強い臓器では、うっ血性の循環障害が顕著になる。肝静脈圧の上昇は肝細胞の低酸素状態を招き、代謝機能の低下や肝酵素上昇を伴う。腎臓では糸球体濾過圧が低下し、尿量減少や急性腎不全様の病態を呈することもある。さらに冠動脈灌流も拡張期圧の低下により障害され、心筋虚血が進行して心拍出量のさらなる低下を助長する。
循環動態的には、心嚢内圧が右心系の拡張末期圧を超えると、静脈還流曲線が急峻に下降し、フランク・スターリング機構が破綻する。これにより前負荷が減少し、心拍出量は指数的に低下する。代償的に交感神経緊張が高まり、末梢血管抵抗が上昇するが、これも臓器灌流をさらに悪化させる方向に働く。
臨床的には、頸静脈怒張、低血圧、心音微弱といった「ベックの三徴」が典型的であり、急性例ではショック様の循環不全を呈する。慢性例では代償機構により一見安定していても、運動時やストレス下で急激に血行動態が破綻することがある。したがって、静脈還流障害の定量評価には心エコーによる右心系虚脱や下大静脈径変化の解析が重要であり、早期の除圧(心嚢穿刺や外科的ドレナージ)が全身灌流維持の鍵となる。